4/13にアップした「スペインGPで起きたこと」へのコメントで、1998年の「原田撃墜事件」について質問をいただきました。昔のレースを引き合いに出すのはいかにもオヤジですよね。スミマセン・・・
かなり記憶に曖昧なところもありましたので、手元にある当時の雑誌やビデオなどを見直して確認しました。 ということで、お詫びとして同事件について以下の通りご説明します。 なお、多分にワタシの心象が反映されていますので、その点、予めご了承ください。 (以下、敬称略) 98年の原田撃墜事件とは・・・ その事件は、1998年の最終戦、アルゼンチンGPで起こりました。 この年は、同じアプリリアのワークスチームに所属する原田哲也とロリス・カピロッシによって250ccクラスのタイトルが争われていました。最終戦アルゼンチンGPを迎えた時点でのポイントテーブルは、トップのカピロッシが204点、2位原田が4点差の200点。アルゼンチンGPでカピロッシが原田より前でフィニッシュするか、原田がリタイアしたらカピロッシがチャンピオン。原田がチャンピオンになるには、カピロッシがリタイアするか、4点以上の差をつけてカピロッシの前でフィニッシュする必要が有りました。 そして迎えた決勝レース。レースは終始、原田とカピロッシ、そして同じくアプリリアのチームメイトだったV.ロッシ(凄い豪華メンバー・・・)の3人による熾烈なトップ争いが展開されました。 そして1位カピロッシ、2位ロッシ、3位原田の順で、運命の最終ラップを迎えます。 ここでいきなり話は1993年に遡ります。この事件の背景をより良く理解するために、1993年についても知っておいた方が良いと思います。 1993年の250ccクラスも、チャンピオン争いは最終戦までもつれ込みました。そしてこの年のチャンピオン争いを演じたのも原田とカピロッシの2人であり、しかもシチュエーションは98年と驚くほど良く似ていました。 最終戦FIM GPを迎えた時点のポイントテーブルは、1位カピロッシ182点、2位原田172点。カピロッシは、たとえ原田が優勝しても、3位でフィニッシュすればチャンピオンを獲得できるという優位な立場にいました。一方原田が逆転チャンピオンになるには、カピロッシがリタイアするか、カピロッシより10点以上の差をつけてフィニッシュするしかありません。10点以上の差をつけるということは、たとえ優勝したとしても、カピロッシが4位以下でなければいけません。極めて不利な、と言うか、ほぼ絶望的なシチュエーションでした。 そして決勝レース。M.ビアッジ、L.レジアーニ、J-P.ルジアが先行し、それをスタートで出遅れた原田とカピロッシが追走する展開となります。ポールポジションからスタートしたカピロッシは原田さえマークしていれば良いわけですから、原田から付かず離れず、余裕のレース展開です。一方原田は先行するビアッジらを必死に追走します。たとえ勝っても、カピロッシが3位以上ならチャンピオンはカピロッシのもの。絶望的なシチュエーションにもかかわらず最後まで諦めずに必死のライディングをする原田。その姿からは悲壮感さえ漂っていました。 そんな原田に勝利の女神が微笑みました。 スペインの熱い太陽に容赦無く熱を浴びせられ、レース終盤、各ライダーはタイヤの消耗と格闘することになります。まずルジアが転倒し、脱落します。更に、先行するビアッジ、レジアーニも徐々にペースを落とします。 しかし原田は持ち前のスムーズなライディングでタイムをキープ。先頭グループを激しく追い上げます。一方カピロッシは原田のペースに付いていくことができず、ライディングに徐々に焦りの色が見え始めます。このまま原田に置いていかれ、更に原田がビアッジとレジアーニを抜き去ってフィニッシュすれば、チャンピオンは原田のものになります。 ズルズルとすべるタイヤと格闘しながら、原田を必死に追走するカピロッシ。 そこに、地獄の口が開いていました。 カピロッシ、コースアウト。 転倒は免れ、コースに復帰したものの、原田は遥か前方に逃げ去った後。万事休す。結局カピロッシは4位でフィニッシュすることになります。 そして原田はその後、ビアッジ、レジアーニを見事抜き去り、奇跡の大逆転で、1977年の片山敬済(350ccクラス)以来となる日本人2人目のワールドチャンピオンの座を獲得します・・・・ そして話は1998年アルゼンチンGPの最終ラップに戻ります。 1位カピロッシ、2位ロッシ、3位原田。 このままフィニッシュすれば、カピロッシがチャンピオンです。 しかし、1993年を彷彿とさせる2度目の奇跡が起こりました。 カピロッシがまたしても痛恨のミスを犯します。カピロッシはロッシと原田に抜かれて3位に後退。これで1位ロッシ、2位原田、3位カピロッシの順に。ロッシ、原田、カピロッシの差はそれぞれ1秒以上の開きがあり、もはや逆転できる差ではありません。このままフィニッシュすれば原田は20点、カピロッシは16点をそれぞれ獲得。ポイントは両者220点で並びますが、優勝数の多い原田が逆転チャンピオンということになります(原田5勝、カピロッシ2勝)。 やがて2人は、フィニッシュラインまで最終左コーナーを残す、最後の右コーナーに差し掛かります。そしてここが、2人にとって運命の場所になりました。 悠々とレコードライン上で減速するマシンをリーンさせる原田。いつもの原田らしい、完璧で美しいコーナーへのアプローチ。右コーナーを抜けると、あとはイージーな左コーナーを残すのみ。カピロッシはまだ減速体制にも入っていない遥か後方。もはや逆転のチャンスは残っていません。レースを観ていた誰もが、1993年の再現となる原田の逆転チャンピオンを確信しました。 ・・・が、次の瞬間、1993年の再現を絶対に認めたくない男によって、その「事件」は起こりました。 クリッピングに向かってほぼフルバンクの状態でコーナリングラインをトレースする原田。そのイン側に、突然カピロッシのマシンが現れました。直前の原田とカピロッシの距離を考えると、常識ではあり得ない光景です。カピロッシの飛び込んできた速度はそのコーナーをクリアするには明らかにオーバースピードで、マシンはまだ半分ほどもバンクしていない状態でした。 そしてカピロッシはそのまま原田の右側面に激突します。 カピロッシは原田との接触によって減速できたことで、きわどいながらもコーナーをクリア。ロッシに次いで2位でフィニッシュします。 一方原田は、右ハンドルバーを引っ掛けられたような状態になり転倒。目前にあった2度目の世界チャンピオンの座まで残り僅か数十メートルを残してリタイアします。 Photo (C) RAI Sport 結果、カピロッシが1998年250ccクラスのワールド・チャンピオンとなりました。 勿論、カピロッシの行為は世界中の非難の的となりました。WGP主催者であるFIMによりカピロッシは失格処分とされ、アルゼンチンGPで獲得したポイントは剥奪されました(後に処分取り消し)。しかしそれでも原田がリタイアした以上、カピロッシのポイントリードに変わりはなく、カピロッシがチャンピオンということになります。こうして、原田の世界チャンピオンの座はカピロッシによって「強奪」されました。 これが1998年に起こった原田撃墜事件です。 このレース界を揺るがした大事件の顛末については、ネット上に数多く記録されているので、もしご興味がありましたら調べてみてください。 この事件の直後は、ワタシもそりゃもう怒り心頭でした。恐らく日本中のファンが同様だったでしょう。カピロッシへの非難は日本はおろか、母国イタリアでも巻き起こっていましたから。 ただよくよく考えると、ワタシの場合、「怒り」よりは「残念」という気持ちのほうが強かったかも。なぜならカピロッシって、日本人ライダーととても仲が良くて、「イイ奴」という印象が強かったから。 実は原田自身もそうだったような気がする。原田自身もカピとは仲が良かったから。原田が最初「殺す気かっ!」と大激怒してたのも、それまで仲が良かっただけに、「オマエがそんな奴だったとは」と余計に腹が立ったからだったのかも知れない。勿論推測に過ぎないけども。 でも、後に「(突撃したことは絶対に許せないものの)ヨーロッパやイタリアにおけるWGPの絶大な人気を考えると、魔が差したカピロッシの心情は理解できる」と(確か)発言してたのも、カピに対する複雑な心情の表れなのかな?と・・・ また、事件直後にも「チャンピオンになれるなら自分もやったかもしれない」と擁護発言する一部のライダーもいた。そうした記事を読んで、あぁ、やっぱりワールド・チャンピオンの座はライダーにとって、それだけ絶対的な価値、目標なんだなぁ、と改めてワールド・チャンピオンの重みや、チャンピオン・ライダー達の偉大さにも気付かされた。 ま、そんな事件でしたね。 ※最後の感想部分、一部修正。 写真引っ張ってきたRAIには映像も残ってます。激突する瞬間だけですけど、百聞は一見にしかず。いかにカピの特攻が無茶なものだったか、ヘタな文章よりも映像を見たほうが良く分かります。 → カピロッシが原田に激突する瞬間の映像 (リンク先ページ下部にある「lo scontro tra Capirossi e Harada」をクリック) RAIって確かイタリアの国営放送で、結構レースの映像が残っています。今やすっかり悪役のキャラクターが板についてきた(?)ロッシの、まだあどけない天使キャラだったころの映像とかも沢山ありますので、ファンの方は必見! → RAI Sport /Moto アルゼンチンGPで優勝した、まだ天使キャラの頃のヴァレ(19歳) [Photo : RAI Sport]
by oretch
| 2005-04-19 12:44
| MotoGP
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