2007年 12月 11日
ビッグ・ジョンに爵位を (訂正アリ)

【注】 本記事初稿(2007/12/11)に事実誤認箇所がありました。原因はオレッチがソースの確認を怠ったことです。自戒の念を込めて、初稿はそのまま晒しておいて、文末に追記の形で訂正内容を記載します・・・・・ orz (2007/12/12)


今、イギリスではこんな運動が起こっている。

AUTOSPORT WEB : サーティースに爵位請願運動 (2007/12/06)
ジョン・サーティースに対して爵位を与えようという請願活動が起こっている。サーティースは、その輝けるキャリアの中で2輪と4輪の両方で世界タイトルを獲得した唯一の人物である。
この請願活動は、英首相ゴードン・ブラウンのウェブサイトにおいて行われている。現在300近い署名が寄せられており、2008年5月の締切日までにはさらに多くの署名が集まるものと見られている。
(AUTOSPORT WEBより抜粋引用)

あれ? サーティースって既に「サー・ジョン」とか呼ばれてるから、爵位貰ってんじゃなかったっけ? と一瞬不思議に思ったけど、これはオレッチが一部誤解している部分があった。
この請願運動の話は、実際はオレッチの想像を上回る話だった。

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写真はグッドウッドでの姿。今年で御年73歳。益々意気軒昂なサーティース翁。
Photo © David



さて、まずは「サー」の称号から調べ直してみた。
サーティースは既に「大英帝国勲章」を受勲していて、これを根拠によく「サー」の敬称つきで呼ばれたりしているけど(オレッチも過去の記事でサー・ジョンとか書いたことがあったような)、詳しく調べたところによると、本来はサーティースに「サー」という敬称を付けて呼ぶのは間違いらしい。

一般に「大英帝国勲章」と呼ばれる勲章には5つのランクがあり、「サー」という敬称が許されるのは本来は「ナイト」と呼称がつく上位の2つまで。サーティースが受勲したのは、実は一番下の「MBE (Member of the Order of the British Empire )」というもので、従って「サー」という呼称は正式には付けないことになる。
大英帝国勲章の5つのランク
1.ナイト・グランドクロス(大十字騎士 GBE)  ←「サー」を付けて呼ぶ
2.ナイト・コマンダー(司令官騎士 KBE/DBE)  ←「サー」を付けて呼ぶ
3.コマンダー(司令官 CBE)  ←こっから下は本来「サー」は付けない
4.オフィサー(将校 OBE)
5.メンバー(団員 MBE)  ←サーティースはここ
(wikipediaより引用)

「MBE」勲章と言えば、元ビートルズのポール・マッカートニーとか、サッカー・マンUのファーガソン監督なんかも受勲していて(日本からは真田広之も!)、「サーの称号を授与された」とかってニュースになったりしたこともある。でも、「MBE」に「サー」を付けるのは近年広まった慣習的なもので、イギリス国内でも現在は普通に「Sir」を付けて呼んだりしているようだから必ずしも間違いということでも無いようだけど、上記のように本来は正しくないということになる。

モータースポーツ界ではサーティースの他に、バリー・シーンやマイク・ヘイルウッド、ジャック・ブラバム、ジャッキー・スチュワート、フランク・ウィリアムズなんかも大英帝国勲章を受勲していて、皆よく「サー」付きで呼ばれたりしているけど、実際にはシーンやヘイルウッドはサーティーストと同じMBEだし、ブラバムとスチュワートは一つ上のランクのOBE、ウィリアムズはさらに上のCBEを受勲しているんだけど、残念ながら誰も正式には「サー」付きで呼ばれるものではなかったわけだ。

で、話を戻してサーティースの爵位請願の話だけど、これが何がスゴイかって言うと、もはや「サー」の敬称どころの話じゃないということ。
「MBE」や「OBE」などの「大英帝国勲章」はその名の通り勲章であって爵位とは違う。大英帝国勲章の受勲者を、日本では「勲功爵」と訳して、あかたも爵位を得たような印象を与えるけど、あれは間違い。勲章を貰っても平民は平民のままだ。対して爵位授与となると、こちらは「ドラキュラ伯爵」だとか「アシュラ男爵」と同じく本物の貴族の身分になることを指す。
つまり、サーティースの爵位請願運動っていうのは、「サー」の付く上位の勲章をすっ飛ばして、正真正銘の貴族にしよう、という話だということだ。

貴族になると、その敬称は「サー(Sir)」じゃなくて、ジオン公国総統の「ギレン閣下」とか銀河帝国の大ボス「ベーダー卿」みたいに、「閣下(His Excellency)」とか「卿(Lord)」になるらしい。「Sir John Surtees」じゃなくて「H.E. John Surtees」とか呼ばれちゃうわけだ。
なんかスゴイ話だぞ。

別に貴族になるからといって「偉い」というわけじゃない。でも、階級制度の本場イギリスで、労働者階級出身のサイドカー・ライダーの倅が、身体一つでレースで身を起こして貴族にまでなったとなれば、実に痛快で面白い話じゃないの。

サーティースはWGPとF1の50年以上に及ぶ長い歴史の中で、両方でチャンピオンになった唯一人の人物なんだから、どんな栄誉が与えられても過ぎるなんてことは無い。母国イギリスで労働者階級に与えられる最高の名誉が爵位ならば、それをビッグ・ジョンが受けることは当然のことだ。

運動の拠点が現在の英国首相のWebサイトだってんだから、実現性もかなり高そうだし、この運動の成り行きは今後も見守っていくことにしよう。


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GPライダー時代のサーティース。なかなかハンサム。
どことなくストーナーに似てる?
Photo © Gunter Geyler


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2輪時代は、最高峰500ccクラスで4回、350ccクラスで3回の計7回タイトルを獲得。
1958年から1960年にかけては、MVアグスタのエースとして両クラスをダブルで3連覇した。
500ccクラスでは3年間の全21戦中、18勝の記録も。まさに無敵の強さだった。
Photo © unknown


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しばらく2輪と4輪を掛け持ちしていた(!)が、1961年に本格的に4輪にシフト。
ロータスを皮切りにF1でのキャリアをスタートさせ、ブラバムやクラーク、ヒルらと凌ぎを削る。
そして1964年、ヒルとの死闘を制してフェラーリで念願のタイトルを獲得。
今現在も唯一無二の、2輪・4輪Wチャンピオンの偉業を達成した。
Photo © unknown


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1967、68年は第一期ホンダのエースとして活躍。
1968年のイタリアGPでは、ブラバムとのバトルの末にホンダに2勝目をプレゼントした。
かように我々日本人はサーティース翁に恩があるんだから、請願運動を応援しよう。
Photo © unknown





イギリスにおける爵位は本来は個人や家系じゃなくて所領(の支配・所有権)に与えられるものだけどサーティースも領地が貰えるのか?とか、イギリス国会には貴族院があるけどサーティースも貴族員の議席が与えられるのか?とか、色々疑問点もあるけれど、そんなこたぁ、実際に“H.E. John Surtees”になってから考えればいいやね。






【追記 2007/12/12】

このニュースを別の英文記事で確認したところ、オレッチの記事には重大な事実誤認があったことが分かった。
以下に、改めて確認した事実と訂正内容をまとめる。

まず、当該英文記事はこちら↓

Formula1 Sport.net : Petition calls for John Surtees knighthood (2007/12/05)
A petition in Britain is calling for the knighthood of formula one legend John Surtees.

“We the undersigned petition the Prime Minister to Knight John Surtees, the only formula one and motor bike world champion,” the opening stanza of the petition, located on the website of British PM Gordon Brown (http://petitions.pm.gov.uk/Sir-John-Surtees/), reads.
(Formula1 Sport.netより抜粋引用)

この英文記事を元に調べ直して分かったことは以下の通り。
  • 「knighthood」という単語は、大英帝国勲章の5つのランク中、「knight(ナイト)」の称号で始まる上位2つのランクのどちらかを受勲することを意味している。
  • 「ナイト」という称号は、「公爵」とか「男爵」とかと同じく、「爵位」を現す称号の一つでもある。なので、元記事である「AUTOSPORT WEB」の「爵位請願運動」という和訳は間違っていない。
  • ただ、現在のイギリスの貴族制度(あるいは貴族身分の定義)では、「ナイト」は貴族に含まれない。「ナイト」という称号は、受勲者に対する名誉的称号となっている。

ということで、サーティースに関する請願運動とは、実際にはサーティースを貴族身分にしようというものではなくて、現在のMBE勲章から“2階級特進”で「ナイト」勲章を授与するよう求める運動だったというのが正しい事実だった。

また、初稿の中の「運動の拠点が現在の英国首相のWebサイト」というのも一部誤解があった。実際は、「英国首相の公式サイトの中の、各種請願運動に関するページ」に過ぎず、いくつか請願事項がある中の一つとして、サーティースに関する請願運動が掲載されていただけだった。

ということで、改めて上記事実の確認を持って、初稿の訂正としたいと思います。
事実誤認に基づくトンデモ記事を書いてしまってすみませんでした >読んでくださった方々

次に、今回このようなことになった原因ですけども、それは単にオレッチが横着したからです。
「AUTOSPORT WEB」は、イギリスの「CRASHNET」の和訳記事を掲載している。なので、最初からちゃんと「CRASHNET」の原文をあたっていれば、こんな事実誤認で記事を書いてしまうようなことは無かった。なのにオレッチは、「CRASHNET」のサイトが重くて、過去記事を見つけるのが面倒だからといって、横着してソースの確認を怠ってしまった。そのため、このようなことになってしまったわけです。

今回のことを深く反省して、今後はこんなことが無いよう気をつけます・・・・ orz





追記の追記。

改めてサーティースの「ナイト勲章請願運動」の中味を考えてみると、爵位かどうかなんて関係なく、やっぱりこれはサーティースの名誉のためにも、是非実現して欲しいなと思う。

だって、フランク・ウィリアムズがCBE(第3ランク)で、ジャッキー・スチュワートやナイジェル・マンセルらがOBE(第4ランク)なのに、唯一無二の2輪・4輪WチャンピオンのサーティースがMBE(第5ランク)っていうのは納得いかないものね。

でもこれはサーティースに限った話じゃないみたい。過去の受勲者を並べて比較してみると、受勲レベルと実績がどうも比例していないような気がするなぁ・・・

● 英連邦系レーサーの受勲状況一覧

+ 2輪関係
  + WGP500ccクラス・チャンピオン
    - レスリー・グラハム 受勲なし ← かわいそう
    - ジェフ・デューク OBE
    - ジョン・サーティース MBE ← これはどう考えてもオカシイ
    - マイク・ヘイルウッド MBE、GM*
    - フィル・リード 受勲なし ← これはどう考えてもオカシイ
    - バリー・シーン MBE
    - ワイン・ガードナー OAM**
    - ミック・ドゥーハン AM**
  + WGP他クラス・チャンピオン
    - ジム・レッドマン MBE
  + 他カテゴリー・チャンピオン
    - カール・フォガティ 受勲なし ← かわいそう
    - ジョイ・ダンロップ OBE 
+ 4輪関係
  + F1チャンピオン
    - マイク・ホーソン 受勲なし ← しょうがない?
    - ジャック・ブラバム OBE
    - グラハム・ヒル 受勲なし ← かわいそう
    - ジム・クラーク OBE
    - デニー・ハルム 受勲なし
    - ジャッキー・ステュワート OBE
    - ジェームス・ハント 受勲なし ← しょうがない?
    - アラン・ジョーンズ MBE
    - ナイジェル・マンセル OBE
    - デーモン・ヒル OBE
  + F1その他ドライバー
    - スターリング・モス OBE
    - ジョン・ワトソン MBE
  + F1コンストラクター
    - フランク・ウィリアムズ CBE
    - ロン・デニス CBE
    - コーリン・チャップマン 受勲なし ← これはどう考えてもオカシイ
    - ブルース・マクラーレン 受勲なし ← かわいそう
    - バーニー・エクレストン 受勲なし ← ざまみろ
  + WRCチャンピオン
    - コリン・マクレー MBE
    - リチャード・バーンズ 受勲なし ← かわいそう

* ジョージ勲章。民間人・軍人の勇敢な行為に対して与えられる。ジョージ6世が1940年に制定。
** 英国女王からオーストラリア国民に与えられる勲章。OAMはイギリスのMBEに、AMはOBEに相当。1975年に創設。


まぁ、よその国の勲章についてあれこれ言うもんじゃないね。
日本だって、勲章に等級がついていることが問題になったりするわけだし、万国共通の課題なのかもね。
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by oretch | 2007-12-11 22:51 | モータースポーツ

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