(もう一月も前の賞味期限切れのネタだけどせっかく色々考えたので意地でも書き残す)
Photo (C) CRASHNET / Yahoo!ITALIA ■ 「3年目の●●」 ロッシはこれで今季3度目のリタイア。中国GPではフロントのバイブレーション(チャタリング)が原因でタイヤトラブルを誘発しストップ。フランスGPではトップ独走中にエンジンがぶっ壊れてリタイア。そして今回のアメリカGPではリアタイヤ・トラブルがエンジンのオーバーヒートを呼び込んでジ・エンド。 これまで勝利の女神の寵愛を一身に受けてきたロッシにこれだけバッドラックが降りかかりまくるのを見ていると、さては女神は男は若けりゃ若いほど好みで、ヘイデンやペドロサに目移りしてんじゃないのか? なんて思えてくる。 それにしても、確かにバッドラックに祟られまくるロッシは気の毒に思うのだけど、それ以上に、せっかくのライダー同士の白熱した戦いがマシン・トラブルで水を差されるのがどうにも腹立たしくてしかたない。F1のマクラーレンに負けてないね。信頼性が飛躍的に向上しているはずの近年にあって、こんだけボコボコぶっ壊れるヤマハはいったいどうなってんだ? ロッシがリタイアの原因を語っている。 「リアタイヤに問題が発生。まったくグリップしなくなってしまったので、クラッシュしないためにはペースを落とすしかなかった。そのあとさらに、エンジンの冷却システムに問題が起きた。オーバーヒートして煙が出始めたんだ。これですべてが終わったと思った。」 Photo (C) Greenhorn Bighorn / SUPERBIKEPLANET トラブルの発端がリアタイアだったということは、シーズン当初から続いているフロントのバイブレーション問題ではなかったわけだ。ということはまたも新たな問題が発生した可能性が高いわけだから、ヤマハ開発陣は今頃頭抱えてんじゃないのかねぇ。 過去2年MotoGPを連覇して、ヤマハ開発陣は自分達のマシン開発力の高さを鼻高々に誇示してきた。オレッチに言わせればマシンじゃなくてライダー(ロッシ)の力で勝てたとしか思えないんだけど、ヤマハ開発陣は一番の手柄は自分達の開発力にあるように吹聴してきた。 そんなヤマハ開発陣に是非今の状況の言い訳を聞いてみたいもんだ。 Photo (C) motogp.com とは言え、ロッシという稀代の天才ライダーを迎えたことで、むしろヤマハ開発陣はロッシが来る前よりも一層努力をしているはずだし、今季のマシン開発失敗(と言ってもいいでしょ、もう)にはもっと複合的な要因があるようにも思えるしね。 オレッチが「これだ」と思う原因は3つある。 まず第一に、これは誰もが想像することだと思うけど、恐らく今季は昨季に比べて開発パワーが落ちているに違いないこと。 来季、MotoGPクラスはエンジン排気量が800ccに変更される。恐らく現在、開発リソースの配分は来季用800ccマシンに比重を移しているはずだから、思うように今季用マシンの開発に注力できていないはず。 で、ここでホンダとの地力の差が如実に現れちゃったんじゃなかろうか? かたや連結売上高10兆円、株式時価総額7兆円を超える2輪界のガリバー企業。恐らく今季はタイトル奪還のために、800ccマシンへの開発投資に負けなくらい、今季マシンにも開発パワーを投入しているに違いない。かたや連結売上1.4兆円、株式時価総額9千億円弱の普通の大企業。親会社と資本の捩れ関係ができてヘタすりゃM&Aされちゃうかもしれないような状態だし(←これはあんまり関係無い?)。企業規模で言えば7~8倍も差があるんだから、ホンダのように“2正面作戦”を取る余裕も無いんだろう。 Photo (C) CRASHNET / Yahoo!ITALIA そして第二に、2年連続タイトルを獲得したヤマハには「ホンダなにするものぞ」という奢りがあったんじゃないのかな? これまでオレッチは「ヤマハはマシンで勝ったんじゃない、ライダーで勝ったんだ」と再三にわたって書いてきた。だから今の状況は当然、「それみたことか」って感じ。 ホンダとの資力の差はなにも今に始まったことじゃなくて、そんなのはフィル・リードやパパ・ロバーツが活躍してた大昔からそうだったわけで、ヤマハは「ウチとホンダさんは会社の大きさが違いますから」という謙遜の言葉を吐くその影で、血の滲むような努力と気合でその資力の差を跳ね返して結果を出してきたんじゃなかったか? だからこそ、巨人ホンダに負けないくらいヤマハは多くのファンを獲得してきたんじゃなかったか? そしてその原動力にはやっぱりハングリー精神と言うか、巨人ホンダには負けたくないという強い気持ちがあったはず。なのにここ2年ホンダを打ち負かしてきたことでそうしたマインドが薄れてしまい、驕りや侮りといった病気にジワリジワリと侵されてしまったんじゃないか? オレッチにはそんな気がしてならないわけだ。 いや、もしかしたら90年代にホンダにケチョンケチョンに負け続いている間に植え付けられた負け犬根性が、たかだか2年ばかり天下を取った程度じゃ土壌改善できないほどに染み付いていただけかもしれないけどね。 Photo (C) Yamaha Motor Co. で、最後の3つ目の原因とは何か? 開発プロセスで最も重要な役割を担っているのはライダーだ。だから今季の失敗の原因としてライダーが無関係ではいられない。 これまでロッシは開発能力が高いと言われてきた。エンジニアにフィードバックする情報量の多さとその正確さは抜群だと評価されている。ヤマハのエンジニアやバージェスもことあるごとにロッシの開発能力の高さを賞賛している。 当然この評価は正しいんだろう。実際、125cc、250cc、最高峰クラスと駆け上ってきたこれまでのキャリアを見渡せば、マシンを自分好みに仕上げた2年目には例外なくチャンピオンを獲得してきた。これはマシンを仕上げる能力の高さの確かな証拠だろう。 じゃあ、なんでそれだけ開発力に優れたライダーを擁していながら、ヤマハは開発に失敗してしまったのか? Photo (C) CRASHNET / Yahoo!ITALIA ライダーの役割が重要と言うことは、良くも悪くもライダーの開発力に依存するということだから、簡単に言ってしまえばロッシの開発力に問題があった、ということだろう。 ここで一度ロッシのキャリアを振り返ってみる。ロッシのキャリアは大きく分けて5つのシーンに分けられる。 まずアプリリア125ccクラス時代。96年に125ccでアプリリアからGPデビュー。97年にタイトルを獲り、翌年には250ccにステップアップする。 次にアプリリア250ccクラス時代。98年にステップアップし、125cc時代同様、250ccでも2年目の99年にタイトルを獲得。翌00年は500ccクラスにステップアップする。 続いてホンダ500ccクラス時代。500ccクラスへのステップアップと同時に古巣アプリリアからホンダに移籍。1年目の00年から如何なくポテンシャルを発揮し、最高峰クラスでも三度、2年目にタイトル獲得という偉業を達成する。 さらにホンダでのMotoGPクラス時代。500ccクラス時代から引き続きホンダに在籍したロッシは、02年、03年とホンダRC211Vで新生最高峰クラスを連覇する。 そして翌04年にヤマハに移籍し、現在のヤマハ時代に至る。 こうしてキャリアを振り返ってみると、ヤマハ移籍以前の4つのシーンに共通する、ある決定的な要素が一つだけ浮かび上がってくる。 125cc、250cc、500ccクラスはそれぞれ2年間しか走っていない。キャリア5年目を迎えたMotoGPクラスでも、ホンダに乗ったのは最初の2年間だけで、3年目以降はヤマハに乗り換えた。 そう。ロッシは過去、同じマシンに3年間乗ったことが無かったのだ。 言い換えれば、ロッシは今年初めて同じマシンで3年目を迎えたということだ。 この「初めての3年目」というのが、実は思いのほか大きな意味を持っているように思えて仕方ないのよオレッチは。 Photo (C) Carlos Luis オレッチはIT企業で商品企画も担当している。商品とは簡単に言うとソフトウェアのパッケージで、これがだいたい1年毎にヴァージョンアップを繰り返すわけだけど、Ver.3、つまり3年目の開発というのはVer.1(1年目)やVer.2(2年目)とは違う難しさがある。 Ver.1(1年目)は企画コンセプトに従って思い込みと勢いで製品を作り上げる。Ver.2(2年目)はVer.1のバグとネガ潰しがセオリー。Ver.1を投入したときの市場からのフィードバックを堅実に製品に反映するわけだ。ところがVer.3(3年目)となると、単にVer.2のバグとネガ潰しだけやっているわけにはいかなくなる。競合企業がキャッチアップしてくるからだ。どうしてもプラスαの新たな価値が求められる。この新たな価値をどういう方向で生み出していくか? どうやって拡張された競争力を獲得するか? というのが本当に難しい。ここで成功すればVer.4、Ver.5とその商品はさらに成長していけるが、ここで失敗するとその商品は早晩、その短いライフサイクルを終えることになる。 これって、GPマシンの開発にそのまま当てはまるんじゃなかろうか? 1年目は移籍初年度なわけだから、必然的に他人が開発したマシンに身を預けることになる。だから1年目はある意味ライダーとしてのセンスだけで乗りこなすことになる。これまでロッシは天性のライディングセンスで見事にそれをやってのけてきた。 2年目になると、1年目の結果や経験を踏まえて、ライダーはマシンを自分の好みに仕上げることができるようになる。ロッシは新しいマシンの2年目には必ずチャンピオンを獲ってきた。繰り返しになるけど、ロッシのマシンを仕上げる能力の高さの証明だ。 では3年目は? 今年はじめて同じマシンで3年目を迎えたロッシにとって、それは初体験、未知の領域だったわけだ。 ということで、ここまでを纏めるとつまりこういうことになる。 ロッシの開発能力に対する高い評価は、実は2年目までに限定されたものでしかなく、3年目の開発能力については未知数だった。そして未知の領域である3年目を迎えた今年、果たしてロッシとヤマハは残念ながら今季の開発に失敗してしまった。 なんかこう書くとまるでロッシが悪いみたいだけど、でもこれってロッシの責任なのかね? Photo (C) DPPI / www.Moto-Live.com 否。オレッチはやっぱりヤマハ側の責任だと思うんだな。もちろんヤマハ技術陣はロッシを念頭において開発したわけだから、ロッシに全く責任が無いわけじゃないとは思うんだけど、でもロッシにとっては未知の領域に足を踏み込んだわけだから、それを見越してヤマハが何らかのリスクヘッジ策を用意するべきだったんじゃないか? ではどんな策が考えられたのか? オレッチの知っている範囲だけでも、3年目の開発に成功し例と失敗した例の両方がある。この過去の事例から学ぶことでヒントを得られるかもしれない。 まず失敗例としては、オレッチが今でもファンのワイン・ガードナーがあげられる。 ガードナーは86年にホンダ・ワークスに加入(85年はホンダUKだから、今でいうサテライトだった)。86年型NSRは当時のエース、スペンサーが仕上げたマシンだった。それでもガードナーは闘志溢れるアグレッシブなライディングでランキング2位を獲得した。 そしてエースに昇格した2年目の87年。ガードナーは見事、自分好みに仕上げたマシンで初タイトルを獲得する。 ところが3年目となる翌88年はマシン開発に失敗し、タイトル防衛に失敗する。パワー優先の開発に走ったために深刻なリアのトラクション不足が発生。シーズン序盤は優勝争いどころか、表彰台に立つのさえ覚束ないような状況だった。まさに「プラスαの新たな価値」の方向付けに失敗したわけだ。 Photo (C) Terry Powell / TERRY POWELL PHOTO & Graphic Design 次に成功した例だけど、こちらは同じファーストネームを持つもう1人のチャンピオン、ウェイン・レイニーがあげられる。 レイニーは88年にヤマハから500ccにデビュー。この年のマシンはヤマハの大エース、ローソンが仕上げたYZRだ。レイニーは1年目から初優勝する活躍で、見事ランキング2位を獲得する。 2年目となる翌89年はローソンがホンダに電撃移籍。ヤマハのエースとなったレイニーが中心にマシンを開発し、結局最後はローソンに敗れたものの、シーズン終盤までタイトル争いをリードする大活躍を見せる。2年目の開発に成功したと言っていいだろう。 そして3年目となる翌90年はどうだったか? レイニーは初タイトルを獲得する。熟成されたエンジンとハンドリングの良さという、ヤマハの伝統に則って正常進化したYZRはシーズンを通してライバル達をリードした。3年目の開発にも成功したのだ。 Photo (C) Terry Powell / TERRY POWELL PHOTO & Graphic Design ではガードナーとレイニーの成否を分けた要因はいったい何だったのか? 87年-88年のホンダは、ガードナー以外にマッケンジー、キリ、八代サンの3人のライダーを抱えていた。いずれも良いライダーだったけど、ガードナーと比べると明らかに格下。おのずとマシン開発の責任はガードナーただ1人に集中した。 一方90年のレイニーの場合は、チーム監督であるパパ・ロバーツ、そしてこの年にホンダからヤマハに復帰した前年王者ローソンと共にマシンを仕上げている。 たった一人でマシン開発を担ったガードナーに対して、自分よりも知識と経験に長けた偉大な先輩達との共同作業を通してマシンで仕上げたレイニー。この開発体制の差が両者の明暗を分けたということだ。 なぜ1人に集中してはいけないのかは論理的に説明するのは難しい。ライダーはおよそ自分にとって乗りやすい方向にマシンを仕上げていくわけだから、単純に考えれば失敗する理屈はない。なのに実際に失敗例があるということは、ライダー側に何らかのリスクがあるのかもしれない。 まず考えられるのは、どこをどういじるとどんな結果が生まれるのかという2輪のエンジニアリングに関する知識の不足。そりゃそうだ。ライダーはエンジニアじゃないんだからね。でもオレッチはそんな常識論よりも、もっとライダーの心理的な側面に起因しているように思う。つまり、勝つためなら敢えてリスクテイクすることを恐れないライダーの強烈な向上心だ。当たり前のことをしていてはライバルにやられる。だから敢えてリスクを背負ってより大きなドバンテッジを獲りにいく。そんなライダーの向上心、闘争心、あるいは野心と言ったようなものが、結果として失敗を招く場合もあるということじゃないかな? そんなライダーの闘争心や野心を周りが抑えようと思ったってできるもんじゃないでしょ。それこそがトップライダーとして必要とされる資質の一つなわけだから。だとすれば、やっぱりメーカーはシステム的にそのリスクをヘッジする策を用意するべきだったんじゃないのか。まして成功例にあげているレイニーの事例はヤマハでのことなんだから、当時の経験を活かさなかったヤマハの怠慢が原因と言ってもいいんじゃないかと思える。 Photo (C) Greenhorn Bighorn / SUPERBIKEPLANET 一番簡単な方法としては、医療分野で今や当たり前になりつつある「セカンドオピニオン」と言えるようなバックアップ策があれば良かったんじゃないのかな? あるいはヤマハはエドワーズにそれを期待していたのかもしれない。だけど、エドのファンには悪いけどやっぱりエドはロッシとは格が違う。ロッシと同じレベルで評価はできなかったように思う。 こう考えると、ロッシがロッシである以上、この結果はやっぱり必然だったのかもしれない。ロッシと同じレベルでマシンを評価できるライダーなんて、ほかに居ないものね。 ということで、結局今季失敗の原因は3分の2はヤマハで、3分の1はロッシがロッシであることの必然と言う結論に達しました。 とにかくヤマハ技術陣、いまいちど奮起せよ! Photo (C) CRASHNET / Yahoo!ITALIA ■ ヘイデンが初タイトルに王手 ・・・・って本当? ヘイデン選手「レースペースは速かったが、タイヤを温存するため、速く走り過ぎないようにした。とにかく焦らず、最後まで走ること。前に出たら逃げ切ることに集中した。今日はチャンピオンシップに向けて大きく前進できた一日だったが、まだまだ先は長い。これからも体調を保って、さらに優勝をしたい」 Photo (C) DPPI / www.Moto-Live.com チェコGPが既に終わってしまった今書いても、まるで後出しじゃんけんみたいになっちゃうからもう今更あまり詳しくは書かないけど、ロッシのリタイアで一瞬「終わった」と思いつつも、でもやっぱり「いや、まだ終わってないかな?」って思ったわけで・・・・ アメリカGP終了時点でのヘイデンとロッシの差は「51」点。とてつもなく大きな差だ。多くのメディアが「ロッシ終わった」って書くのは当然の見識でしょう。 でもね、この数字を見るとちょっと印象が変わる。 CZE MAS AUS JPN POR VAL 合計 この表は、今季残りのサーキットでのロッシとヘイデンの過去3年間の平均獲得点の比較。 両者の差は「73.7」点。現在の点差よりもずっと大きい。 さらに、「もしロッシがリタイアせず、トラブル直前の順位のままフィニッシュしていたとしたら」という仮定でポイント計算をしてみると、次のような結果になる。 11戦終了時点 ロッシ 194点、ヘイデン193点 わずかながらロッシが1点リード。でもレース内容はロッシの方がずっといい。 もちろん、これらの数字はただのお遊び。前者は過去3年間の単なる統計データにしか過ぎず、今季の両者の好不調もヤマハのマシンの信頼性の問題も全く反映されていない。それに去年だけを見てみれば、両者の差は「24」点に過ぎなかった。後者にいたっては、「タラレバ」というレースのタブーを破った計算だから前者以上に無意味な比較だ。 Photo (C) CRASHNET / Yahoo!ITALIA でもね、こららの数字を見ていると、世間で言うほどヘイデンが圧倒的に優位というもんでもないんじゃないの? という気にはなる。 というか、そう思いたいんだよね。だってまだレースは6戦も残ってるんだから。まだまだタイトルの行方は決まって欲しくないわけよ! ヘイデン、まだ安心すんのは早いぞ!まだまだ気ぃ引き締めて頑張れ! ロッシ、まだチャンスはあるぞ!諦めずに最後まで頑張れ! どっちもまだまだ頑張れ! 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| 2006-08-31 23:59
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